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平成18年3月14日 在エジプト日本国大使館
在留邦人の皆様へ
鳥インフルエンザ対策
日本大使館 医務官 美甘克明
2月17日、高病原性トリインフルエンザH5N1感染が、カイロにおいても家禽で確認されましたが、3月13日現在までに家禽から人に感染した例はエジプトでは報告されていません。しかし、トリ−ヒト感染はトルコ、イラクで既に発生し死亡者も出ており、今後当地もトリ−ヒト感染例が出る可能性があります。
世界保健機構(WHO)は、ヒト−ヒト感染が生じた際には大流行(パンデミック)になる可能性があり、その備えを再三呼びかけています。既にアメリカ、イギリスなどではその際の大流行(パンデミック)に備え、マニュアルを作成しています。これは、鳥インフルエンザの問題が一時的なものではなく、渡り鳥は大陸を季節毎に行き来するため、今後とも多くの人びとが危険にさらされる懸念があるからです。大地震は目に見える恐怖なのでその備えに対して、可能性のある地域では真剣に取り組むことができます。ところが、鳥インフルエンザのパンデミックは目に見えない脅威であり、その危険の程度が分かりにくく実感がわかないのが現状です。
1.鳥インフルエンザとは? 一般的には鳥インフルエンザは人間には感染しませんが、高病原性H5N1型鳥インフルエンザに感染した鳥に濃厚な接触があった場合、感染する可能性があります。
2.鳥インフルエンザと季節性インフルエンザの相違
トリ型とヒト型では、ウィルス表面にある蛋白の種類が異なります。 [H]と [N]の2種類あります。15種類あるトリの[H]は、通常ヒトの[H]にとりつきにくいとされています。ところが、近年[H5]がヒトに感染するようになったのです。
[H]: Hemagglutinin , [N]: Neuraminidase
毎年実施されている季節性インフルエンザワクチンは、A型では[H1N1], [H2N2], [H3N2]の3種類に対するワクチンであり、今年の流行は[H3N2]が確認されており、良く対応しているとされています。この季節性ワクチンでは、現在流行しているH5N1型トリインフルエンザを予防することができません。現在、トリ―ヒト対応の専用ワクチンが開発され、製造が始まっています。しかし、パンデミックに対応するには、変異した新たなウィルスに即座に対応しなければならないため、できるだけ早くワクチンが製造できるような技術開発が望まれています。
3.なぜこのH5N1について危機感を持つ必要があるのでしょうか? 大流行(パンデミック)の生じる可能性は3通りあります。(1)アジアかぜと香港かぜは、ヒト型とトリ型の分節遺伝子が豚の中でミックスされ遺伝子再集合が起こり、新たなウィルスが誕生したと考えられています。(2)ヒトでも同様な現象が起こりうるとされています。(3)スペインかぜのように遺伝子の突然変異がヒトで生じ、新型ウイルスが強い毒性を持つ可能性が危惧されています。
H5N1型鳥インフルエンザは、鳥から他の動物に感染することがわかりました。現在、豚、猫、虎、テンなどの感染が確認されています。ヒトにも感染し、ベトナム、インドネシア、タイ、中国、カンボジア、トルコで96人(3月8日現在)が死亡しています。これまではトリ−ヒト感染だけでヒト−ヒト感染は確認されていません。このヒト−ヒト感染が心配されるようになりました。
図に示すように、パンデミックは10年から40年毎に生じており、最後の1968年の大流行(パンデミック)から38年経過しているため、次のパンデミックが警戒されている要因の一つです。いつ生じるか誰も予測できない状況です。現在心配されているH5N1型鳥インフルエンザウイルスが変異し、ヒトがヒトにうつすような強い感染力を持つようになると、世界中の誰も免疫を持たないために、大流行をすると考えられています。
世界保健機構(WHO)などの国際機関は、このような大流行が生じた際、どのようにすればよいか対策を立てておくよう、政府や各企業などの組織や各家庭に呼びかけています。
図:インフルエンザ大流行の歴史
4.トリインフルエンザ症状
発熱:一般に38度以上の高熱。咳、喉の痛み、関節の痛み、筋肉の痛み、結膜炎、肺炎、60%が下痢症状。重症化した際、3日以内で呼吸困難に陥り、呼吸不全や多臓器不全など容態は深刻になります。
5.トリインフルエンザの予防 (1) まずは予防が重要 手洗い、うがい(一日3-4回、水で実施するだけでも約40-50%は予防できるという報告があります。)できれば、緑茶や紅茶でうがいしましょう。含まれるカテキンには、抗細菌作用、抗ウイルス作用、抗真菌作用があります。 (2) 鳥(特に鶏、アヒル、鴨などの家禽類)への接触を避けましょう。
養禽場、生きた鳥を扱う市場、鳥の屠殺・処理場などに不用意、無警戒に立ち寄らないこと。死んでいる鳥や猫などの動物にさわらないよう、2メートル以内には近づかない様、子供にはよく言い聞かせましょう。感染している鳥あるいはその死骸にとりついているウィルスは、1~2メートルの範囲内で漂うことができます。近ければ近いほどウイルスを吸い込む危険が高くなります。
(3) 鶏卵や鶏肉は十分加熱すること。 ウィルスは日光と熱に弱く、調理した卵や鶏肉で鳥インフルエンザに感染した例は報告されていません。しかし、感染した鶏をさばいたり感染したカモの血を入れた濃厚なスープを飲んで発症した例が報告されています。腸チフスやサルモネラなど他の感染症にも罹患することがありますから、できるだけ加熱するようお勧めします。 WHOは、鳥肉の中心温度が70℃以上に達するよう加熱することや、鳥肉を調理した包丁やまな板などは、他の食材を調理する前に充分洗浄することを推奨しています。
(4) 健康管理に専念する。 適度な運動、バランスのとれた食事(暴飲暴食をしない)、十分な休養。
(5) 風邪をひいたと思ったら、ヒトにうつさないように工夫する。 1)自宅で休養を充分とる。 2)くしゃみや咳をするときはハンカチで鼻と口を覆う。マスクをする。 たった1回のくしゃみで100,000個ものウィルス粒子が空中にまき散らされるといわれています。
(6) 禁煙し肺の状況を良くしておくこと。 イギリスのマニュアルでは、まず第一に禁煙が重要な予防法であると訴えています。
注:日本人会誌「パピルス」健康のすすめNo.9(2005年、1・2月号)もご参考ください。
参考になるホームページ
1.厚生労働省のホームページ http://www.mhlw.go.jp/ 2.海外渡航者のための感染症情報 http://www.forth.go.jp/ 3.海外派遣企業での新型インフルエンザ対策ガイドライン http://www.johac.rofuku.go.jp/news/pdf/guideline.pdf |
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