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エジプト基礎情報~産業
 

 

 1.農林水産業


(1)農業

エジプトにおいて農業は、就業人口、生産額のみならず外貨獲得の面でも歴史的に経済の中心をなしてきた。農業のGDPに占めるシェアは1971年の31%から2015/2016年には11%に低下しているが、雇用においては約4分の1を占めるとともに輸出収入においても重要な地位にある等、農業はエジプト経済における基幹産業として今なお中心的な役割を担っている。

エジプトの農地面積は従来国土の約3%に過ぎず、アスワンからカイロに至るナイル川に沿った狭い帯状の地域(ナイル谷)とカイロから地中海に至るナイルデルタ地帯、ファイユームのオアシス等極めて限られた地域で農業が行われてきた。これを灌漑等により2030年までに約5%まで広げることを目指している。

また、年2%以上(2016年6月に中央動員統計局(CAPMAS)が発表した統計では、2.4%)の高い人口増加率の下で、主要穀物のうち小麦、とうもろこしを輸入に依存する状況にあり、綿花をはじめとした農産物輸出にも伸び悩みがみられることから、農業生産の一層の増大が求められている。農業生産は、カイロ・アレキサンドリア間の沙漠道路沿いに拡がる新規農地開拓地(マンスーラ、ノバレイヤ地区等)及びデルタ東側のシャルキーヤ地区等において主に輸出用農産物の生産が盛んで、農業輸出産業の成長率は2010年から2014年の5年間で約12%増加している。

なお、1980年代以降シナイ半島北部を中心に進められてきた大規模農地開発、アスワン・ハイ・ダムからニュー・バレーと呼ばれる西部砂漠のオアシス地域に至る大運河を建設して大規模農地開発を行う「トシュカ・プロジェクト」については、一定の進捗はみられるものの、当初の計画通り進んでいない模様。

エルシーシ政権は、同政権が実施するメガプロジェクトの一つとして、2014年に400万フェダン(約172万ha)の農地開拓計画を立ち上げたが、2015年には第1弾農地開拓として150万フェダン(約65万ha)の事業推進に変更している。同計画は主に西方沙漠の地下水を利用する灌漑計画となっている模様。

一方、農業を巡る経済環境の改善策としては、経済改革の一環として、公的企業の民営化が進められており、農業関係公社等の民営化も進められているほか、農産物に関する統制もほぼ撤廃された。また、1992年には、土地改革法を一部改正し、小規模零細農家保護政策から農業生産性の向上を目的として農地の規模拡大を促す政策への転換が行われ、小作料の自由化等土地所有に対する制限が大幅に緩和されることとなった。これらの努力もあり、米、小麦、とうもろこし等についても生産性の向上が見られる。

なお、主な農産品輸出は、オレンジ、チーズ、ぶどうであり、主な農産品輸入品は、小麦、トウモロコシ、大豆(2012年、FAOSAT)となっている。エジプトの小麦輸入は世界中で一番多く、国内消費量の約半分の約1,000万トン近くを占める。日本への主な農産品の輸出は、冷凍及び乾燥の野菜及び果物、ジャム、ゴマ等が大半を占め、輸出量は年々増加傾向にある。


(2)水産業

エジプトの水産業は、海面漁業及び内水面漁業に大別できる。海面漁業は地中海、紅海・スエズ湾が中心であり、内水面漁業は北部汽水湖、ナイル川、ナセル湖(アスワン・ハイ・ダムのダム湖)等で行われている。近年養殖業にも力を入れている。
 

(3)エジプトにおける稲の品種

エジプトで栽培されている米の約8割は日本と同じジャポニカ米で、主として国内で消費されている。約2割のインディカ米は主に輸出されている。
エジプトの米は、1917年にYabani(ヤバニ:アラビア語で「日本」)という品種名の日本のジャポニカ米を元に品種改良が進められた。中でも、1954年、Yabani M47がNahdaと命名されてエジプト政府の栽培奨励品種となり、約20年間、エジプト稲作の基幹品種となり,一時は、全作付面積の95%ほどにまで普及した。その後、同品種を親として育成されたGiza171及びGiza172が主要品種となっている。この間、外国種と交配し輸出用として長粒品種が数種育成されたがほとんど普及しなかった。1970年代後半、日本から「レイホウ」という品種がGiza173として導入され、1980年代半ばには作付面積の約4割を占めるまで普及したが、1985年に「レイホウ」のみ稲熱(イモチ)病が大発生したため、1986年からエジプト政府が作付けを禁止した。それ以降は、イモチ病抵抗性強化が主目標になり、再び長粒品種が作付けされるようになったが、エジプト国民には食味の点で好まれていない。


 

 2.製造業・鉱工業

 

エジプトはアラブ諸国の中では比較的早い時期に工業化が開始され、基幹産業は歴史のある繊維産業、食品工業であり、そのほか組立を中心とした機械工業等の業種を有している。エジプト政府の統計によると、GDPに占める製造業の割合は、2015/16年度で16%であり、部門別には第1位である。次に大きな割合を占めるのが、鉱工業であり、世銀の発表によると、GDPに占める同部門の割合は、2015/16年で13%である。

 

 3.エネルギー

 

(1)概況

 

エジプトのエネルギー源の太宗は石油・天然ガスである。石炭も、埋蔵量は多くないもののシナイ半島において開発が進められている。

石油は、長らく4大外貨収入源(他は観光収入、海外労働者送金、スエズ運河渡航料)の一つとして、エジプトの国際収支状況改善に貢献してきたが、近年生産量の減少、国内消費の増大等により純輸入国となっている。

代わりに期待されているのが天然ガスであり、2015年8月にはイタリア炭化水素公社(ENI)がシュルーク鉱区に地中海最大規模のガス田を発見し、今後相当年数の需要を賄える見込み。
石油や天然ガスは、国内では、主に発電用に消費されている。経済成長に伴い、近年国内電力需要は急増しており、エジプト電力・エネルギー省によると、2014/2015年度の総発電量は15.8万メガワット時となった。今後も長期的に電力需要の高い伸びが見込まれることから、新規発電所の整備計画に加え、近年は風力、太陽光、太陽熱など、エジプトが強みを持つ「再生可能エネルギー資源」についても開発が進められている。政府は2007年4月に、2020年までに総発電量のうち20%を電力可能エネルギーによりまかなうことを目指す方針を打ち出している。

 

[参考] 主要指標

 

· 石油

o生産:約70万バレル/日(2015年)

 

· 天然ガス

o生産:約4.4兆立方フィート/日(2015年)


 

(2)日本企業の動向

2013年9月現在、双日(株)が米国IPR社、APACHE社と共同で、西部砂漠にて石油開発を実施、生産中である。また、豊田通商(株)は、2008年から、エジプトガス公社及び南部エジプト石油開発公社と共同で地中海において海洋ガス田掘削請負事業を実施中であり、2016年3月のエルシーシ大統領訪日時には大水深用半潜水型ガス田掘削装置(セミサブリグ)を新造・所有し、エジプト政府(EGAS/GANOPE)へ長期傭船(10~15 年)を行う事業に係るMOUを締結した。

 

 4.運輸・通信

 

(1)自動車・道路
 
2015年時点の自動車登録台数は860万台(CAPMAS:中央統計局)、となっており、100人当たりの自家用車保有台数は約10台と推計されている。。
道路の総延長は163,000km(2015年CAPMAS)、全国の主要幹線道路は運輸省の道路橋梁公団(GARBLT)が建設・管理を行っている。
2015年のエジプト全土の交通事故は約14,500件、死者数は年間約6,200人(CAPMAS)となっている。

(2)鉄道

エジプト国鉄が管理する鉄道路線延長は9,570km、年間輸送量は旅客が5億人(2014年)、貨物が600万トン(2014年度)である。
カイロ地下鉄は、運輸省のトンネル公社(NAT)が建設を行い、カイロ地下鉄公団(ECM)が管理運営を行っている。1号線(ニュー・エル・マルグ~ヘルワン間)は1987年、2号線(ショブラ・エル・ケイマ~エル・モニブ間)は1996年に仏の援助により開業した。現在3号線の建設も進められており、2012年2月及び2014年5月に一部区間が開業している。 1号線の一部車両、2号線及び3号線の全車両は日本製である。今後の計画として、ギザのピラミッドエリアとカイロ市内を結ぶ4号線が日本からの円借款供与(STEP)により整備される予定である。

(3)港湾・海上輸送

2015年の港湾取扱貨物量は、エジプト全体で1億3,257万トン。うち輸入が9,346万トン、輸出・移入が3,911万トンと輸入貨物が過半を占める(エジプト政府統計EMDB)。
港湾取扱貨物の主要な輸入品目は、重量ベースでは、穀物、鉱物・石油製品等などのバルク貨物であり、主要な輸出品目はセメント等、鉱物・石油、肥料などである。
コンテナ貨物はエジプトの港で2015年に644万TEU取扱い、うち輸入が323万TEU、輸出が321万TEUとなっている。。
なお、エジプトの港湾は15の主要港と44の特別港があるが、主に4つの主要港(ポートサイード、ダミエッタ、アレキサンドリア、スエズ)の取扱い貨物が多い。
エジプト政府は、スエズ湾北西部地域の一環として2002年10月にアイン・ソフナ港を開港。これはエジプト初のBOT(Build, Operate and Transfer)方式による港湾で、民間出資によるアイン・ソフナ港開発会社がコンテナ・ターミナルの運営を行っている。
一方、ポートサイードのシナイ半島側には東ポートサイード港が2004年10月に開港。エジプト第2のBOT方式による港湾として、欧州企業やエジプトの官民等の出資によるスエズ運河コンテナ・ターミナルが運営を行っている。

(4)スエズ運河

スエズ運河は地中海側のポートサイードと紅海側のスエズを結ぶ全長約190kmの運河である。1869年の開通時は、水路幅44m、水深10mだったが、その後、数次にわたる拡張工事が行われた。このうち最大規模のものが1975年から1980年に実施された第1期拡張計画で、総工費約13億ドル(うち外貨分7.6億ドル)のうち我が国は本計画へ2.6億ドル(610億円)の資金協力を行ったほか、浚渫船の購入(120億円)を支援した。また2014年8月、エル・シーシ大統領がスエズ運河拡張を1年で実施することを発表し、2015年8月に完了した。この工事は全長約193kmのうち、35kmを掘削による複線化、既存運河37kmの増深、計72kmの拡張事業で、資金は自国民のみが購入できる債券を発行して約80億ドルを調達し、約40億ドルで完工した。現在の水路幅は200/210m(南行/北行)、水深は24mである。運行にかかる所要時間は、北、南行きともに約11時間である。
運河通航量の推移を見ると、通航隻数は、1982年の2.3万隻をピークに船舶の大型化を背景に減少を続けてきたが、近年の経済活動のグローバル化を受け90年代末以降増加に転じたが、貨物船の大型化から近年は減少傾向となっており、2008年の21,415隻から2014年は17,148隻、2015年は17,483隻(日平均約48隻)となっている。スエズ運河の通航が把握されている日本関係船舶は、年間約1170隻が通航(日平均約3.2隻)し、船社からは年間約3.8億ドルが運航料としてスエズ運河庁に支払われている(2015年実績)。

一方、通航総トン数は90年代に一旦落ち込んだもののその後は総じて年々増加しており、2015年は過去最高を更新する9億9865万トンとなった。
運河通航料収入は、エジプトの外貨収入源として重要な役割を果たしており、2014/2015年度は、5362百万ドルであった(エジプト中銀)。
通航料金に関しスエズ運河庁は、2012年から2014年まで通航料の値上げを実施したが、2015年、2016年と料金は据え置きとなった。

(5)航空

エジプトには、現在民間航空輸送に利用されている空港が22あり、民間航空省のエジプト空港・航空管制持株会社傘下にあるカイロ空港会社がカイロ空港を、エジプト空港会社がそれ以外の空港を管理運営している。
2015年の航空旅客数はエジプト全体で約3,481万人、うちカイロ空港は約半数の約1,637万人(2015年)となっている。
カイロ空港は4,000m、3,300m、3,133mの3本の滑走路と3つの旅客ターミナルビルを持つ中東でも有数規模の24時間空港である。
1963年に完成した第1ターミナルは欧米等の航空会社が利用している。第2ターミナルは現在改修中である。第3ターミナルは2009年6月に完成し、エジプト航空を中心に複数の航空会社が利用している。
エジプトのナショナルフラッグキャリアであるエジプト航空は1932年に開業、1960年に国有化された。2002年に持株会社化され、民間航空省のエジプト航空持株会社の下にエジプト航空のほか航空貨物、メンテナンス、機内サービス、免税品販売など9つの会社に経営が分割された。
日本・エジプト間の航空業務に関する協定は1962年5月10日に署名された。カイロ-東京間をエジプト航空(週2便)と日本航空(週1便)がそれぞれ運航していたが、湾岸戦争に伴い日本航空は1990年11月から運航を取り止めた。その後、関西国際空港開港(1994年)、成田空港暫定平行滑走路供用(2002年)に伴い、エジプト航空は、それぞれカイロ-大阪間、カイロ-東京間の直行便の運航を開始した。2009年には、カイロ-東京間週3便、カイロ-大阪間週2便(冬期は3便)(いずれもエジプト航空)が運航されていたが、2011年の政変を経て、2011年2月に直行便を停止した。その後2012年4月、カイロ-東京間が週2便で再開(9月には週3便に増便)、2012年12月、カイロ-関空間で週2便を再開したが、2013年7月の政変の影響を受けて、カイロ-成田便が停止となり、2013年10月にはカイロ-関空便も運航停止となっている。なおエジプト航空は、日本からの周遊チャーター便を2016年11月20日から2017年4月30日出発便まで週一便ペースで運航している。

6)情報通信

エジプトにおける情報通信分野の成長率は年13~15%とされており、年平均4%程度のGDP成長率を大きく上回る急速な成長を遂げている。エジプト政府は、情報通信市場の拡大に伴い、インフラ整備に積極的な姿勢を示している。海外からの研究開発投資を誘致するべく、2006年には通信市場が自由化された。固定電話市場ではテレコム・エジプトの独占が続いているが、契約回線数は1,000万回線を上回っている。移動体通信市場では加入者数が急拡大している。ボーダフォン、Orange、Etisalatの3社がサービスを提供。


 

 5.観光

 

2014/2015年度の観光収入は73.7億ドルで、エジプトの主要外貨収入源の一角を占めている。エジプトを訪れる外国人来訪者は、これまで1991年の湾岸戦争、1997年の外国人観光客襲撃テロ及びルクソール事件、2011年の9・11同時多発テロ、2003年の対イラク武力行使、2011年の9・11同時多発テロと、度重なる事件の発生に影響を受けながらも、全体としては増加しており、2010年には過去最高の1,473万人を記録した。しかしながら、2011年の政変の影響もあり、2011年は985万人と減少したが、2012年は1,153万人まで回復。2013年は政変により約945万人と再び減少し,2014年は約988万人まで回復したが、2015年はロシア機墜落等の影響から約933万人に減少した。


日本人観光客は、過去最高を記録した2010年(約12万6千人)から、2011年は約2.6万人に激減し、2012年は約3.9万人、2013年は約3.1万人、2014年は約1.2万人、2015年は約1.6万人と回復していない。
 

 


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